
和歌山ラーメンとは
和歌山ラーメンは、主に和歌山県北部で、専門店や大衆食堂で出されるラーメンの総称。
1930年代、和歌山駅から県庁を通る繁華街の屋台が発祥。
ラーメン店では「中華そば」、略して「中華」と呼ぶのが一般的。味はTVの影響で一般に「和歌山ラーメン=濁った豚骨醤油味」と認識されているが、和歌山県内では「中華そば=澄んだ醤油系」という認識がある。
歴史的に澄んだ醤油系が先にあり、後発の濁った豚骨醤油系がTVで取り上げられたので、大きく分けて2つの系統があるとされる。
また他にも、食べ方、店での応対など他の地方には見られない特徴的な風習が多く、1つの地域文化を形成している。特徴については以下本文で列挙する。
車庫前系と井出系
「ブーム」という言葉の意味は、あることが爆発的に流行すること、急激に盛んになることをいう。「和歌山ラーメン」のそれはブームといって間違いないほど、話題沸騰であった。それはあるテレビ番組で「井出商店」が「日本一うまいラーメン店」と評価されたことから始まる。タイミング良く、新横浜ラーメン博物館への出店も決まり、マスコミへの露出が急増した。和歌山のタウン情報誌を発行している出版社へかかってくる電話の半分以上が和歌山ラーメンについての問い合わせだったとういう、嘘のような笑える噂話すら耳にした。1999年3月に和歌山県が「井出商店」に感謝状を出したことからもそのブームの大きさがうかがえる。
特筆したいのは、その「日本一」のご当地ラーメンは、一朝一夕にできあがったものではなく、TVで紹介されるまで60年以上の歴史があるということだ。関西でいちばん古いといわれている「新福菜館(1938年創業)」とほぼ同じ頃である。いいかえれば、60年もの間、ひっそりと存在していたわけだ。地元の人にとっては、普通の当たり前のラーメンだったのだ。
和歌山ラーメンには、面白いいくつかの特徴がある。
●ラーメンではなく、「中華そば」、「中華」と呼ぶ。
●サイドメニューが特徴的
●店に早寿司・茹で玉子が置いてあり、一緒に食べる人が多い(おでん・どて焼きも多い)。
※早寿司とははサバなどの魚を使った押し寿司で、ラーメン店の卓上にゆで卵と一緒にあり、客はラーメンを注文して出てくるまでに、これらを食べて待つ。
※どて焼きとは牛ホルモンに味噌ダレを付けて焼いたもの。お酒を飲んだあとにラーメンを味わう文化があるからそのサイドメニューとして置かれている。
●他地域のラーメン店でよく置いてある「白米・炒飯」「唐揚げ・餃子」などがない場合が多い。
●会計は自己申告(自分が何を食べたか、を言って払う)が多い。
●店名に〇(まる)が付いているのが多い。
「○三」「○イ」「○木」「○高」「○京」「○宮」など。
●胡椒が最初からかけられている店が多い。薬味の種類は少なくニンニクなどない場合が多い。
●麺は細めのストレートで、茹で方は柔らかめ。
●具には青ネギ、メンマ、チャーシュー(モモ肉)などのほか「蒲鉾(かまぼこ)」がのる。(ナルト模様が入った「千代巻」)これは地元企業に蒲鉾屋があり、その宣伝活動に因む。
●スープは大きく分けて二つ。車庫前系(澄んだ豚骨醤油味)と井出系(濁った豚骨醤油味)
車庫前系というのは、その名の通り、市電(路面電車)の車庫の前にあった屋台が発祥ということからきている。その元祖が「○高」だ。
「○高」のダシの採り方には特徴がある。まずは、豚骨を一度醤油で煮てから一晩寝かせる。翌日、その醤油が染み込んだ豚骨を改めて煮なおしてスープを採るのである。醤油発祥の地ならではのやり方といえる。車庫前系の店は、ほかに「○宮」「○木」「○竹」「○京」「大福軒」などである。
一方、井出系の濁ったスープは、まったく偶然の産物である。久留米にあった白濁スープの元祖「三九」がそうだったように、「井出商店」でも強火で炊きすぎたために濁らせてしまったスープが意外に美味しく、それを使ったのである。井出系の店には「井出商店」「○三」「正善」などがある。
とはいえ、この二つだけに集約されるわけではなく、他にもいろんな美味しいラーメンが存在する。井出系にも似た感じで驚くほど濃厚豚骨の「山為食堂」、温麺も人気の「よなきや」、まろやかスープの「○繁」(豚骨は使っていないらしい)、普通のラーメンを頼んでもネギでスープが見えないほどたっぷり入ってくる「○イ」、木造の店舗が大きく傾いていることでマスコミによく紹介される「○豊」(閉)、スープが甘く、柔らかいチャーシューの大きさに驚かされる「マルタカ」(車庫前系とは同名異店/閉)、なども明記しておきたい。
近年は和歌山らしい味のラーメンとして、名産品である梅を使ったラーメンや、紀州備長炭を練りこんだラーメンなども出てきている。
ラーメンジャパン / ラーメン店の例
車庫前系ラーメン店の例
井出系ラーメン店の例
その他の和歌山で人気のラーメン店の例
他域で食べられる和歌山ラーメン
和歌山ラーメンはそのブランド価値からか、東京だけでなく比較的広い分布を見せている。横浜家系と同様、「豚骨醤油」という味が日本人に受け入れられているからかもしれない。

大阪ラーメンとは
明確な「大阪ラーメン」は特になく、他地域からの流入したラーメンと変わり種のラーメンが多数ある。
また「高井田系ラーメン」という工場労働者向けに提供されはじめて定着していったの塩分濃い目の「地ラーメン」があり、ひとつのジャンルを形成している。
意外にも「群雄割拠」
俗にいう「食い倒れの街」大阪。しかし、なぜか「大阪ラーメン」は存在しない。1940年代にはラーメン屋もあったらしいが、大きな営業を及ぼすには至っていない。
また、2015年の日経新聞の記事からの引用になるが人口10万人あたりのラーメン店の数は10.6店で日本47都道府県中、兵庫県、奈良県と並び全国45位で消費額も少ない。
理由は諸説あるが、400年以上前から大阪城建築の頃からあり、安価で美味しい「うどん文化」が定着していることと言われている。ラーメンの価格よりうどんの価格の方が安く、口に慣れているということだ。また、うどんにも使われる昆布やカツオのダシの文化(旨味・甘みがやや強く塩分濃度が低い)が浸透している大阪で、醤油などの塩分強めタレ(カエシ)を用いた鶏ガラベースや豚骨ベースのラーメン(中華そば)はあまり合わなかったという説もある。
大阪のラーメンの特徴として変わり種ラーメンが多いことも挙げられる。人気ランキングでよく一位になるのがミナミの「神座(かむくら)」。ここは、コンソメ風とでもいおうか洋風スープのような感じで、しかも白菜を具に使っている。ラーメンの種類ならなんでもあるといわれる東京でもこれに似たラーメンはない。「揚子江」は、1964年創業の塩ラーメン店で具に春菊がのっている。暖簾分けを含め何軒か、関連店が存在する(福井にもある)。トマトラーメンで有名なのは「信濃路」(2022年末に惜しくも閉店)。大阪には他にも「拉麺開花(かいほう)」や「麺や 五山」などトマトラーメンを出す店があり、けっこう人気も高い。
また、「まいど商店」という店が「うちが大坂ラーメンを作る」といって、変わったラーメンを出していた。
たっぷりのニンニクを使うことで人気になった「薩摩っ子」は、多店舗展開中。
おこげをラーメンに入れるという発想で評判になった「創作麺処 つる」は、日本料理出身者。現在は店名を「丹頂」とし、名物メニューの茶碗蒸しラーメンを提供。さらに火をつける茶碗蒸しラーメンフロマージュがある。
このように変わり種が人気になってしまうのが大阪の特徴のようにも思われる。しかし、個人的にいちばん大阪らしいと思っているのは、ライトな豚骨スープのラーメンである。おそらく元祖は24時間営業の「金龍」。道頓堀の目立つところにあり、絶えずに賑わっている。龍を象った派手な外観といい、どこかナニワっぽさを感じてしまうのである。
他には食前酒として白ワインがサービスされる「らいよはうす」。ここはチャーシューが美味しい。薬味にカレー粉があるのも珍しいが、豚骨に意外なほどカレー粉が合うのである。チャーシューとその端っこをうまく使ったヘタ丼(刻みチャーシュー丼)が人気の「福将軍」は、九州ラーメンと謳っているがライトな豚骨である(2014年閉業)。ヘタ丼が名物や人気商品になっているお店は多く、「みつ星製麺所 福島本店」や「麺屋 縁」など多くのお店で提供している。
寝屋川の「功留館ふりだしや」は、山形の三元黒豚を使っているライト豚骨で、チャーシューが旨い。そしてソースカツ丼が人気。
大阪のど真ん中、中央区の本町にある「フラン軒」はソフトクリーム等をラーメンの中央に置く衝撃的な商品を期間限定で売り出すが通常商品が美味いと人気。
変わり種や特徴のあるラーメン店の例
東大阪市の北西端、大阪城からは東、地下鉄中央線高井田駅の周辺である「高井田地区」には、極太のうどんのような麺に鶏ガラベースの真っ黒な醤油ラーメンを出すところが数軒ある。
1953年屋台から創業の「光洋軒」、1945年創業(菓子店)1956年中華そば提供開始の「住吉」が老舗。ここを発祥として、高井田系といわれる地元のラーメンが大阪には一つのジャンルを形成している。
ルーツは、夜勤明けの地元町工場の労働者達に、屋台でラーメンを提供していたのが始まりと言われている。
高井田系ラーメンは、肉体労働で汗を大量にかく工場の労働者向けのラーメンなので以下の特徴を持っている。
・塩分濃度が高い醤油スープ。
・ボリュームのある極太麺を使用する。
・値段が安い。
・夜勤明けに食べられるよう、お店は朝から営業(通称:おはようラーメン)
・テイクアウトができることが多い。
高井田系ラーメン店の例
他エリアのご当地ラーメン店が活発なのも大阪のもう一つの特徴といえよう。特に目立つのが尾道(広島県)。尾道ラーメンを謳う店が何軒もあるが、同じ経営者がやっているわけではない。一度に一杯ずつしか作らない「一杯入魂」の「山長」は、食べ終わったスープに特製酢を入れて飲むとさっぱりできる。店の人に頼むとスープが多くても飲み干すのにちょうど良いくらいまで減らしてから酢を入れてくれるので助かる。ほかには、「十六番」「十八番」「月光仮面」など。
他にも四国の徳島ラーメン「まる徳」や「東大」鹿児島系の「真琴」、九州とんこつラーメン「ばっこ志」「しぇからしか」と西日本のラーメンが各種出店している。西日本だけでなく新潟燕三条背脂ラーメン「なおじ」や喜多方ラーメン「喜多方食堂」、札幌ラーメン「ラーメン白樺」、岐阜県高山ラーメン「麺屋しらかわ」、山形ラーメン「烈火」、など中部、東日本側からの参入もある。最近では東京で牡蠣のラーメンで名を馳せたSoupmenが「Oysstey 日本橋店」として進出したり他エリアのラーメンの流入が多いのも文化・経済のひとつの中心地としての魅力かもしれない。
他エリアからのご当地ラーメン店などの例
「大阪にうまいらーめんがない」(ラーメン不毛地帯)などとよく言われるが、こうしてあげてみるとけっこういい店もあることに気が付く。他にも繁華街の奥にあってちょっと見つけにくい「作ノ作」や、コンビニのカップラーメンにもなり多数の弟子を輩出する1957年創業の「カドヤ食堂」、豊中で人気のイタリアン・フレンチテイストを取り入れた「五大力」などなど、大阪も目が離せない地区の一つである。
近年では奇抜な社名・店名で快進撃をつづけるUNCHI株式会社の「人類みな麺類」「くそオヤジ最後のひとふり」や、行列を作る「桐麺」、「人生JET」など高評価の新しい店舗も増え、大阪はラーメン激戦区とも言えるエリアとなった。
大阪ふくちぁんラーメン、金龍、神座などのローカルチェーンのラーメン店から天下一品(京都府)、ラーメン横綱(京都府)、来来亭(滋賀県)、一蘭(福岡県)、丸源ラーメン(愛知県)などの全国区のラーメン店も展開し東京と同様にあらゆる種類のラーメンが楽しめる大都市である。
ローカルの多店舗展開のラーメン店の例
●どうとんぼり神座 … フレンチテイストを取り入れたラーメン。コンソメのようなスープに具には白菜とチャーシュー。関東にも多数出店している。
●大阪ふくちぁんラーメン … 自家製麺店炊き豚骨スープ、店仕込継ぎ足しタレのチャーシュー。無料キムチバー。
●金龍ラーメン … 巨大な龍のオブジェ。繁華街で24時間営業、外国人にも大人気。
また上記掲載した高井田系ラーメンの麺屋7.5Hzも多店舗展開をしている。
大阪で人気のラーメン店の例

京都ラーメンとは
京都府京都市を中心に提供・消費されるラーメンや、京都が発祥のラーメンの総称である。
系統はおおまかに3つに分けられるとされ、以下のものである。
●豚骨、豚肉の出汁を用いた濃厚色醤油ラーメン(あっさり系)
●鶏ガラ主体のスープに背脂を浮かせたラーメン(背脂チャッチャ系) …背脂醤油か背脂豚骨
●鶏白湯ラーメン(こってり系)
京都以外の外部エリアから入ってきたものやジャンルの異なる系統のものも多く、複雑であるのが実情だ。九州ラーメン系や塩ラーメン系、中華そば系など東京ラーメンも流入。
首都圏に発生した「京風ラーメン」とは、京料理をイメージした和風だしで細麺、薄味の醤油ラーメン「和風ラーメン」が発案されたもの。だが実際は薄味のラーメンは京都では少数派とされている。
特徴
麺は細めのストレート角麺が使われていることが多い。
またトッピングに京都の伝統野菜で甘くて風味の良い青ねぎ「九条ネギ」が使われていることが多い。
定番のコショウの他、一味唐辛子、ごま、おろしニンニク、にんにくチップ、ニントン(ニンニク唐辛子)、ラーメンダレ、酢、豆板醤などの唐辛子味噌、ニラ漬け、各種キムチなど薬味が豊富であることが多い。
具材は、モヤシ、メンマ、叉焼、ネギが基本形。
濃厚こってりが身上
一時期、首都圏に「京風ラーメン」なるものが出現した。それはあくまでも京都をイメージした商業ベースの和風であっさりしたラーメンであり、決して「京都」のラーメンではない。京都のラーメンは実際にはかなり濃厚な、どちらかといえば、こってりした部類のラーメンが多い。
「京都」といえばまず「天下一品」(創業1981年/230店舗超の巨大ラーメンチェーン)であろう。あのドロドロしたスープは豚骨ではなく鶏ガラをベースに数種類の材料から採る。果たして何が含まれているのか、というラーメンフリークの謎解きの話題にもなったほど。細かいところは良くわからないが、何しろそのゲル状のスープには驚かされた。今でこそ平気で食べられるが、最初の対面時には開いた口がふさがらなかった。麺を持ち上げるとスープの大半がくっついてくるのだから。絡みがいい、とかそういう表現ではない。箸が立つかどうかが旨さの分岐点、などといっていた頃もあった。最近は昔と比べてスープの材料の構成が変わったようなので、箸が立つことはないかもしれない。このラーメンが京都発で全国を席巻している。およそ200軒超あるようだ。(2023年現在230店)
次に歴史的にも知名度的にも有名なのは「新福菜館」(創業1938年)。京都駅近くの高架下に「第一旭」(創業1947年)と並んでいる店が本店で、両店共に朝から営業しているので朝早くからラーメンを食べたい人には重宝されている。「新福菜館」は、新横浜ラーメン博物館に出店し、一躍全国区的人気になったが、もともと京都では老舗であり、人気のある店であった。
特徴は、味が濃すぎるのではないかと思われるほどに真っ黒な醤油スープ。麺は個性的な丸くてコシの強い太麺。具は薄切りチャーシューが何枚も入っている。個性的であるがゆえに他の店への拡がりはそんなに多くはないが、京都ラーメンの代表的一店には間違いない。
そして、その二店と並んで人気があるのが「ますたに」(創業1949年)であろう。鶏ガラベースの醤油味に豚の背脂をのせたラーメンであり、東京の背脂チャッチャ系よりも10年ほど早く営業を開始している。東京にも暖簾分けとして同名の店がある。両方食べ比べていただければわかるが、味は随分と違う。それはそれで良くできたラーメンなのでむしろ別の店名で出してもいいのでは、と思うほどである。
さて京都の「ますたに」であるが、ここはかなり京都のほかのラーメン店に影響を与えていると思われる。「ほそかわ」をはじめ、この手のタイプが京都には随分とあるのだ。多かれ少なかれ「ますたに」の真似、もしくは影響を受けていると思われる。人気の「夜鳴きや」は独学ではじめた店だが、好きな味として通った店は「ますたに」だったらしい。
さて、これらの三パターンが長い間、京都のラーメン界の大きな流れであった。しかし、京都にもニューウェーブが誕生しつつある。おそらく、今、行列が長い東の代表が「東龍」で西の代表が「杉千代」である。
「杉千代」は、開店当時の味を変えて、京都のラーメンにより近づいた感じになった。個人的には、クセのあった前の味が好みだったが、今のラーメンもまとまりがある。開店前から並びはじめ、本来の開店時間より先に開けることも多いようだ。
「東龍」の東龍そばは、他には見当たらない変わったスープである。いってみれば野菜ポタージュのような黄色みを帯びたものなのだ。どうもカボチャが入っているためにそんな色になっているとか……。だからといって「変わり種」ではない。これまでにないけど、間違いなくラーメンなのである。そして、ここにはもう一つの味がある。それは中華そば。基本メニューがどちらなのかは不明だが、壁のメニューでは「東龍そば」が右端なので「中華そば」は二番手なのかと勝手に思っている。こちらは、一般的な中華そばのように見える。しかし、こちらも十分に人気がある。だからこその行列店なのだろう。開店前には20~30人が並ぶ。唐揚げやサイドメニューなども負けずに人気の一品。
なかなか新店で人気になる店が少なった京都に今、新風が吹いている。